春、初々しい姿で入団してきた新1年生。
それぞれ恒例の50m走を計測。
その中で、誰よりも一際目立つ選手がいた。
計測タイムは、なんと!!
【9秒8】
トホホ、、、断トツの遅さ。
えー!!
マジでー⁈
周りの選手達からも、歓声なのか悲鳴なのか分からない声が湧きあがっていた。
当の本人は…
「10秒越えんくて良かったぁぁ」
と、フラフラ歩きながら苦笑い。
私達スタッフもある意味未知の世界。
一緒になって笑うしかなかった。
が、とにかくこのチームに入って変わろうと言う心意気は、彼から感じるものがあった。
「9秒8は、これまで入ってきた選手で初めてやわあ!!
卒団する時、絶対6秒台出すぞ!!
伝説作ろ!!
そしたら、足が遅くて自信ない子が入ってきた時、こんな男がおってん!って、お前の物語を話しさせてよ!!
伝説の男になれ!!」
その後、ゴロやフライを思うように捕れなくて、悔しくて泣いたり、まぁ色んな事があった。
卒団の日までに、彼は6秒台で走れるようにならなかった。
あと、もう少しが足りなかった。
高校に進んだある日の事。
彼は再びグランドにやってきた。
そして、「学校の測定で6秒8出ました!
このグランドで出せてないので、今日測ってもらえますか?」
約束を果たしに来た彼の姿に感動した。
そんな彼は、高3となりこの夏はキャプテンとなっていた。
夏の高校野球予選。
ツーアウト。
あと1人のアウトでチームの負けが決まる場面で、彼に打席が回ってきた。
TVの前にかじりつき、その姿を観ていた。
タイミングが合っていないまま、
ツーストライク。
追い込まれた。
微かに
もう、あかんか…
と、思ったその瞬間。
見事なセンター前ヒット!!!
「やりよったー!! 男になったぞ!!」
と、スタッフLINEに報告。
彼らしい場面に、彼らしい最後の打席。
伝説の男らしい高校野球の終わり方だった。